後継者が会社に入った後に起きる問題|権限移譲・自社株・親子承継の注意点

事業承継や経営者保証について対話する社外CFOのイメージ

事業承継において後継者が決まり、会社に入社すれば、承継は大きく前進します。

でも、後継者が決まっただけで、事業承継の問題が解決するわけではありません。

むしろ、後継者が会社に入ってから、それまで見えていなかった問題が表面化することがあります。

聞いていたよりも借入金が多い。

赤字部門や不採算取引が放置されている。

売上が社長個人の営業力や人脈に依存している。

経営者の「イエスマン」ばかりで、自ら判断して動く社員が少ない。

後継者には業績責任を求めるのに、人事、投資、借入れなどの決定権は渡さない。

経営は任せたい。でも、自社株は手放したくない。

前回の記事では、相続税対策より先に、会社の将来、株式、事業用資産、家族の納得感を整理する必要性について書きました。

今回はその続きとして、後継者が会社に入った後に起きやすい問題について、社外CFOの立場から解説します。

後継者が入社してからが、本当のスタート

親族や社員が会社に入ると、周囲は、

「これで後継者問題は解決した」

と安心するかもしれません。

しかし、会社に入ったことと、
その会社を背負う覚悟ができたことは同じではありません。

後継者が財務状況や経営課題を理解し、従業員や取引先との関係を築き、経営判断に必要な権限を持つまでには時間がかかります。

後継者が決まった時点は、ゴールではなく、承継のスタートです。

後継者が感じる「聞いていた話と違う」

後継者がもともと会社員だった場合、入社するまで自社の実態を十分に理解できていないことがあります。

親から聞いていたのは、会社の歴史、強み、主要取引先、将来性など、よい話が中心です。

会社へ戻ってきてもらうためのスカウトという意味もあり、実態より少し盛った話になっていることもあります。

「うちは取引先もしっかりしている」

「社員もみんな、お前が戻ってくるのを待っている」

「借入金はあるけれど、大したことはない」

ところが、実際に入社すると、次のような問題を初めて知ることがあります。

  • 想定より借入金が多い
  • 経営者保証を引き継ぐ可能性がある
  • 赤字部門や不採算取引が放置されている
  • 未回収の売掛金や動かない在庫がある
  • 売上が現経営者の人脈に依存している
  • 月次資料や資金繰り表が整備されていない
  • 社員が社長の指示を待つことに慣れている
  • ガバナンスが機能しておらず、社長の独断で物事が決まっている

後継者からすれば、

「聞いていた話と違う」

となります。

会社の魅力だけではなく、借入金、経営者保証、不採算事業、組織上の問題など、都合の悪い情報も早い段階から共有しなければなりません。

その現実を知った上で、本当に引き継ぐ意思があるのかを確認することが重要です。

前経営者には「頼りない」、後継者には「古い」と見える

親子承継では、前経営者と後継者が、お互いを正反対に評価することがあります。

何十年も会社を経営してきた前経営者から見ると、後継者は経験不足で頼りなく見えます。

「まだ修羅場を経験していない」

「取引先との関係を分かっていない」

「銀行からお金を借りる怖さを知らない」

「経営のしんどい部分が見えていない」

会社経営には、外からは見えにくい領域が数多くあります。

資金が足りないときに、どこからお金を集めるのか。

大口取引先から無理な要求をされたとき、どこまで受け入れるのか。

赤字でも簡単には切れない取引や、長年のしがらみをどう扱うのか。

前経営者からすれば、後継者が経営の泥くさい部分を知らないまま、理想論を語っているように見えることがあります。

一方、後継者から見える景色は違います。

「過去の成功体験にこだわりすぎている」

「デジタル化が進まず、紙や口頭指示に頼った仕事の進め方が残っている」

「赤字の取引を、昔からの付き合いだけで続けている」

「社員が社長の顔色ばかり見ている」

「何を提案しても、昔はこうだったと言われる」

そのうち後継者も、

「何を言っても分かってもらえない」

「変える気がないのなら、自分を戻した意味がない」

と感じるようになります。

どちらか一方だけが正しいわけではありません。

前経営者の経験には、決算書やマニュアルには表れない価値があります。

一方で、過去に成功した方法が、今後も通用するとは限りません。

何を残し、何を変えるのか。

会社の将来という共通の目的に戻って話し合う必要があります。

責任を求めるなら、権限も渡す

後継者には、

「売上を伸ばしてほしい」

「利益を出してほしい」

「社員をまとめてほしい」

と責任を求める。

その一方で、人事、投資、借入れ、不採算取引の見直しなどの決定権は渡さない。

責任はある。

でも、権限はない。

これでは、後継者は十分な経営判断ができません。

不採算事業をやめようとしても、前経営者が反対する。

人事を変えようとしても、前経営者が止める。

後継者が決めた方針も、社員が前経営者へ相談すれば簡単に覆る。

これでは社内でも、

「本当の社長は誰なのか」

が分からなくなります。

どの権限を、いつ後継者へ移すのか。

前経営者はどこまで関与するのか。

意見が対立した場合、最終的に誰が決めるのか。

肩書きだけではなく、実際の意思決定権を整理する必要があります。

経営は任せたい。でも、自社株は渡したくない

前経営者の中には、日々の経営は後継者へ任せたい一方で、
自社株は手放したくないと考える方もいます。

株式を渡せば、自身の会社への影響力が低下するからです。

長年経営してきた会社の場合、株式の移転は、財産だけでなく、自分の決定権や存在意義まで手放すように感じられることがあります。

自分が育てた会社から離れる不安。

後継者に任せて大丈夫なのかという心配。

会社に必要とされなくなる寂しさ。

そうした感情が、自社株を手放せない理由になっていることもあります。

でも、責任は後継者に負わせながら、最終決定権を前経営者が持ち続ければ、対立につながります。

一方で、経営権や株式を一気に移すことにもリスクがあります。

大塚家具の親子間対立を思い出す方も多いのではないでしょうか。

もちろん、同社の事例には個別の事情があり、事業承継だけで説明できるものではありません。

ただ、代表者を交代させ、株式を渡せば承継が完了するわけではないという点では、大きな示唆があります。

担当部門の権限、役職、決裁権、自社株を段階的に移し、前経営者の関与範囲と期限を決める。

前経営者が安心でき、後継者も責任を持って経営できる形を設計する必要があります。

「当然のお小遣い」が親子の亀裂になる

前経営者の処遇が、親子の亀裂につながることもあります。

前経営者は実質的に隠居状態で、会社にはほとんど来ない。

経営上の責任も負わない。

それでも、以前と同じ役員報酬を「当然のお小遣い」のように求める。

そうした場面も、実際にはあります。

一方、後継者は、借入金の返済、設備投資、従業員の給与、将来の資金繰りを考えながら経営しています。

後継者からすれば、

「経営責任を負っているのは自分なのに、なぜ退いた人への支払いを優先しなければならないのか」

という不満が生まれます。

しかし、前経営者にとって、役員報酬が生活資金になっていることもあります。

会社から報酬を受け取ることが、会社とのつながりや、自分の存在価値を確かめる手段になっている場合もあります。

どちらか一方を責めても、問題は解決しません。

前経営者がいつまで役員に残るのか。

何を担当するのか。

役員報酬をいつ見直すのか。

退職金や退任後の生活資金をどう確保するのか。

こうしたことを、承継前から話し合っておく必要があります。

社外CFOは、親子の間をつなぐ役割も担う

親子が直接話し合うと、経営の話よりも感情が前に出ることがあります。

「昔からお前は我慢が足りない」

「誰のおかげで会社があると思っているのか」

「何を言っても聞いてもらえない」

「それなら、なぜ自分を会社へ戻したのか」

こうなると、話は前に進みません。

社外CFOには、数字を整理するだけでなく、前経営者と後継者の間をつなぐ、仲人的な役割もあります。

前経営者の、

「まだ任せられない」

という言葉の背景には、借入金を背負わせる心配や、主要取引先との関係が切れる不安があるかもしれません。

後継者の、

「もう口を出さないでほしい」

という言葉の背景には、責任に見合う権限がほしい、社員の前で決定を覆さないでほしいという思いがあるかもしれません。

第三者が間に入ることで、

「心配しているのは、借入金のことですね」

「後継者が求めているのは、まず人事と投資の決裁権ですね」

と、感情を具体的な論点へ置き換えることができます。

社外CFOの役割は、どちらが正しいのかを判定することではありません。

前経営者の経験を尊重しながら、後継者が次の経営者として力を発揮できる環境を整えることです。

親子だけでは進まなかった話が、第三者が入ることで整理され、スムーズに進むことも少なくありません。

事業承継は、後継者が決まってからが本当のスタート

後継者が決まったことは、事業承継における大きな前進です。

しかし、重要なのは、その後です。

会社の現実を後継者と共有する。

責任に見合う権限を渡す。

自社株の移転を計画する。

前経営者の役割、報酬、退任後の生活を整理する。

そして、前経営者の経験と、後継者の新しい視点を次の経営につなげる。

後継者が決まった時点は、ゴールではありません。

そこからが、本当の事業承継のスタートです。

後継者が見つからない場合には、M&Aも有力な選択肢になります。

ただし、M&Aも会社を売却すれば終わるものではありません。

売却価格、一部株式の保有、買い手との相性、売却後の経営体制、PMIについては、次回の記事で詳しく解説します。

事業承継についてお悩みの経営者様へ

UKパートナーズでは、後継者への財務情報の共有、借入金や経営者保証の整理、権限移譲、自社株移転に必要な資金の検討を、社外CFOの立場から支援しています。

親子で話し合うと感情的になり、話が進まない。

どこまで情報や権限を渡せばよいか分からない。

前経営者の退任時期や役員報酬を整理できていない。

そのような段階でもご相談いただけます。

前経営者と後継者の間に立ち、会社の現状と課題を客観的に整理し、関係者が納得できる事業承継を伴走支援します。

すでに税理士や金融機関へ相談されている場合でも、別の立場から状況を整理するセカンドオピニオンとしてご相談いただけます。

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