決算対策は「節税」だけではない|中小企業の社長が決算前に整理すべきこと
決算が近づくと、経営者の方から「今期は利益が出そうなので、何か対策できないか」という相談を受けることがあります。
特に、売上の変動が大きい会社では、ある年だけ大きく利益が出ることがあります。一方で、売上が比較的安定している会社でも、決算予測をしてみると想定以上に利益が残り、納税額が気になることがあります。
経営者として、「税金を払いすぎたくない」と感じるのは自然なことです。
法人税、地方税、消費税、個人側の所得税や住民税、社会保険料まで含めると、経営者が税負担を重く感じる場面は少なくありません。また、事業は自己責任で行っており、利益が出れば税金がかかる一方、赤字になったからといって自動的に助けてもらえるわけではありません。
そのため、できるだけ税負担を抑えたいという気持ちは十分理解できます。
ただし、決算対策を考えるうえで、まず押さえておきたいことがあります。
それは、税金を払った後に残る利益が、会社の自己資本として積み上がるということです。
自己資本が厚くなれば、会社の対外的な信用につながります。金融機関から見ても、利益を出し、納税し、自己資本を積み上げている会社は評価されやすくなります。その結果、融資枠が広がる、プロパー融資につながる、借入条件が改善されるなど、長期的には大きなメリットがあります。
建設業で経営事項審査を受けている会社であれば、利益や自己資本は経営状況分析にも影響します。つまり、目先の節税だけを優先すると、金融機関評価や対外信用の面で不利になる可能性があります。
中小法人については、法人税率そのものは年800万円以下の所得部分について15%、年800万円超の部分について23.2%とされています。ただし、実際には地方法人税、法人住民税、事業税なども関係するため、実効税率は会社の所在地や規模などによって変わります。
そのため、決算対策では「税金をいくら減らせるか」だけではなく、税金を払った後に会社にどれだけお金と信用が残るかという視点が必要です。
節税しすぎることのデメリット
節税を目的に無理に経費を増やすと、確かに当期の利益は減ります。
しかし、同時に会社の手元資金も減ります。
たとえば、100万円の経費を使ったとして、税率が仮に30%だとすると、税金は30万円程度減るかもしれません。しかし、会社からは100万円の現金が出ていきます。結果として、税金は減ったけれど、手元資金は大きく減った、ということが起こります。
これは本当に得でしょうか。
もちろん、必要な投資や将来の売上につながる支出であれば意味があります。
従業員への賞与、必要な設備投資、人材採用、システム投資などは、会社の成長につながる可能性があります。
一方で、「税金を減らすためだけ」に不要なものを買うと、会社の資金繰りを悪化させることがあります。節税をした結果、手元資金が薄くなり、結局、金融機関から追加融資を受けることになるケースもあります。
決算対策では、ある程度の税金は会社の信用を積み上げるための通行料として割り切ることも大切です。
逆に、節税をしすぎて赤字が続けば、自己資本が減り、場合によっては債務超過になります。これは金融機関や取引先から見れば、客観的にはマイナス評価につながります。
まず考えるべきは「キャッシュアウトを伴わない対策」
決算対策には、大きく分けると2種類あります。
1つは、キャッシュアウトを伴わない対策。
もう1つは、キャッシュアウトを伴う対策です。
まず検討すべきは、キャッシュアウトを伴わない対策です。
代表的なものとしては、次のようなものがあります。
・不良在庫の評価損や除却損
・使用していない固定資産の除却
・回収不能となった売掛債権の貸倒処理
・実態に合わなくなった資産の整理
これらは、実際に価値が下がっている資産や、使えなくなっている資産を会計・税務上きちんと整理するものです。単なる節税テクニックではなく、会社の実態を決算書に正しく反映する作業でもあります。
ただし、評価損や除却損、貸倒処理には税務上の要件があります。実態がないのに損失処理をすることはできません。実行する場合は、必ず顧問税理士と確認する必要があります。
次に検討するのは、支出時期や制度を活用する対策
キャッシュアウトを伴う対策であっても、事業上必要な支出であれば検討する価値があります。
たとえば、短期前払費用の取扱いがあります。これは、一定の契約に基づいて継続的に役務提供を受ける費用について、支払日から1年以内に提供を受けるものを支払った場合、継続して支払日の属する事業年度の損金として処理しているときは、支払時点で損金算入が認められるというものです。
ただし、「何でも前払いすれば経費になる」という話ではありません。
継続適用、契約内容、役務提供期間、支払時期などの要件を確認する必要があります。
また、中小企業者等の少額減価償却資産の特例もあります。取得価額30万円未満の減価償却資産について、一定の要件のもとで取得価額を損金算入でき、合計額は年間300万円までとされています。
パソコン、備品、ソフトウェアなど、事業に本当に必要なものであれば有効です。
しかし、不要なものを決算前に慌てて購入すると、税負担は下がってもキャッシュが減ります。
「いずれ必要になるものを前倒しで購入する」のか、
「税金を減らすために不要なものを買っている」のか。
この違いは非常に大きいです。
決算賞与は「活きた支出」になることもある
利益が出たときに、従業員へ決算賞与を支給することも選択肢の一つです。
決算賞与は、単なる節税ではなく、従業員への還元、ロイヤリティ向上、来期へのモチベーションづくりにもつながります。会社にとって必要な人材投資であれば、活きた支出と考えることができます。
ただし、未払計上して当期の損金とするには要件があります。国税庁は、使用人賞与について、支給額を各人別に通知していること、通知した金額を事業年度終了日の翌日から1か月以内に支払っていること、その事業年度で損金経理していることなどを示しています。
したがって、決算賞与を検討する場合も、税理士や社労士と確認しながら進めることが重要です。
利益の繰り延べは「税金が消える」わけではない
突発的な売上増加や一時的な利益が出た会社では、「今年だけ利益が出たので、少し翌期以降に繰り延べたい」という相談もあります。
この考え方自体は理解できます。
ただし、繰り延べは、税金が完全になくなるという意味ではありません。
当期の利益を翌期以降に移すことで、当期の税額を抑える効果はありますが、将来のどこかで課税される可能性があります。つまり、繰り延べは「税金を消す」のではなく、「課税のタイミングをずらす」ものです。
代表的なものとして、中小企業倒産防止共済、いわゆるセーフティ共済があります。掛金は一定の範囲で損金算入でき、掛金月額は5,000円から20万円まで、掛金総額は800万円までとされています。制度の詳細や解約時の取扱いは、必ず最新情報を確認する必要があります。
セーフティ共済は有効な制度ですが、あくまで繰り延べ効果が中心です。
将来解約したときの益金計上や、資金の固定化も含めて考える必要があります。
生命保険は「節税商品」ではなく「財務戦略」として考える
決算対策の相談では、生命保険の活用について聞かれることもあります。
以前は、法人保険を節税目的で検討するケースも多くありました。しかし、現在は法人契約の定期保険や第三分野保険について、最高解約返戻率などに応じて資産計上や損金算入の取扱いが定められています。最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる期間の割合を指します。
そのため、生命保険を「節税になるから」という理由だけで検討するのは危険です。
たとえば、保険料100万円を支払ったとしても、その全額が損金になるとは限りません。仮に一部だけが損金になる場合、当期の税負担軽減効果は限定的です。その一方で、100万円のキャッシュアウトは発生します。
つまり、生命保険を繰り延べ効果だけで見ると、期待したほど有利ではないケースもあります。
では、生命保険に意味がないのかというと、そうではありません。
生命保険は、本来、経営者や役員に万が一のことがあった場合の資金確保、借入返済への備え、事業承継、退職金準備、相続対策、キーマンリスク対策など、会社と社長個人の財務リスクを整理するための手段です。
重要なのは、
「節税になるか」ではなく、
「会社にどのリスクがあり、どの保障が必要なのか」
「資金繰りに無理はないか」
「将来の退職金や承継と整合しているか」
を確認することです。
生命保険は、財務戦略の一部として位置づけられる場合に意味があります。
節税だけを目的にすると、キャッシュアウトとのバランスが悪くなることがあります。
即時償却や投資型の商品には慎重な判断が必要
世の中には、即時償却や大きな節税効果を訴求する商品もあります。
もちろん、法令上認められた制度や投資を適切に活用すること自体は否定されるものではありません。しかし、税務上の取扱いは制度改正や通達、個別事情によって変わることがあります。
また、節税効果だけに注目してしまうと、投資リスク、流動性リスク、解約リスク、将来の課税、資金繰りへの影響を見落とす可能性があります。
「税金が減るからやる」のではなく、
「会社の財務戦略として必要か」
「資金繰りに耐えられるか」
「将来の出口まで説明できるか」
を確認することが大切です。
決算対策は、社長の意思決定を整える時間
決算対策は、単なる節税ではありません。
本来は、今期の利益、納税資金、来期の資金繰り、借入返済、金融機関対応、従業員への還元、役員報酬、退職金、生命保険、来期投資を整理し、社長が次の一手を決めるための時間です。
税金を減らすことだけを目的にすると、会社にお金が残らず、信用も積み上がりません。
一方で、何も考えずに税金を払うだけでは、必要な投資やリスク対策の機会を逃すことがあります。
大切なのは、税金を払うか、節税するかの二択ではありません。
会社に利益をどう残し、どこに使い、どのリスクに備え、来期以降の経営にどうつなげるか。
ここを整理することが、決算対策の本質です。
UKパートナーズでは、決算対策を単なる節税ではなく、資金繰り、借入、金融機関対応、役員退職金、生命保険、来期投資まで含めた財務判断の機会として整理します。
決算前に、利益、納税、資金繰り、借入、保険、退職金、来期投資の論点を整理したい場合は、早めに現状把握を行うことをおすすめします。
※本記事は一般的な考え方を整理したものであり、個別の税務判断や具体的な税額計算を行うものではありません。実際の処理や制度活用については、顧問税理士等の専門家にご確認ください。