資金繰りが苦しくなる会社の5つの原因|試算表を見ても資金ショートを防げない理由
「毎月、試算表はきちんと確認している。それでも資金繰りに不安がある」
「利益は出ているはずなのに、納税の時期になると現預金が足りなくなる」
「銀行から借りられるうちは困らないが、借入残高と毎月の返済額ばかりが増えている」
こうした会社に共通しているのは、単純に売上や利益が少ないことではありません。
・試算表が出てくるのが遅い。
・毎月の棚卸しをしていない。
・借入れが場当たり的になっている。
・資金繰り表を作っていない。
そして、経営者自身が将来のお金の流れを整理できていない。
要するに、過去の数字を集計する仕組みはあっても、未来の資金を管理する仕組みがないのです。
資金繰りが苦しくなる会社では、「お金が足りない」という結果だけを見るのではなく、数字が出るスピード、利益の正確性、借入れの計画、将来の入出金予測、そして経営者の関与まで確認する必要があります。
この記事では、試算表だけを見ていても資金ショートを防げない理由と、中小企業の経営者に毎月確認してほしいポイントを、社外CFOの視点から解説します。
この記事で分かること
資金繰りが苦しくなる会社に共通する、次の5つの原因を解説します。
- 試算表が出てくるのが遅い
- 商品・製品・材料の棚卸しを毎月していない
- 「借りられるだけ借りておく」が常態化している
- 資金繰り表を作成していない
- 資金繰りのマネジメントを経理や税理士に任せきっている
あわせて、翌月5営業日までに速報値を確認する考え方、6か月から12か月先の資金繰りを予測する方法、資金繰りと成長投資のバランスについても整理します。
試算表を見ているだけでは資金ショートを防げない
試算表は、売上や仕入、人件費、その他の経費など、すでに起きた取引を会計ルールに基づいて整理したものです。
もちろん、経営判断にも使える重要な資料です。
ただし、試算表が示しているのは、基本的には過去の結果です。
一方で、あなたが資金繰りを考えるときに知りたいのは、未来の数字です。
- 来月の納税後に、現預金はいくら残るのか
- 賞与や設備投資のあとも資金繰りは回るのか
- 売上が今のペースで増えた場合、運転資金はいつ、いくら不足するのか
- 3か月後、6か月後の預金残高はいくらになるのか
- 設備投資をしても、今の財務体力で無理がないのか
試算表では利益が出ていても、売掛金の回収が無いと口座残高は増えません。
借入金の元金返済は損益計算書の経費として計上されないですが、預金口座からは毎月お金が出ていきます。
設備投資、保険料のうち資産計上される部分なども、試算表上の利益とは同じ動きをしません。
「利益は意見、キャッシュは事実」という言葉があります。
会計上の利益は、減価償却の方法や在庫の評価、費用を計上する時期などによって変わります。
会計ルールに基づいた数字ですが、判断によって見え方が変わる部分もあります。
それに対して、預金口座を出入りするお金は、誰が見ても同じ事実です。
試算表の利益だけを見ていても、将来の資金不足をイメージしにくい原因はここにあります。
利益と現預金がずれる基本的な仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:黒字決算なのに会社にお金が残らない理由|利益と現預金の違いを社外CFOが解説
資金繰りが苦しくなる会社に共通する5つの原因
1.試算表が出てくるのが遅い
月次の試算表は、理想をいえば翌月の5営業日程度までに速報値を確認できる状態にしたいところです。
速報値なので、すべての数字が完璧に確定している必要はありません。
請求書がまだ届いていなければ、見込み額や前月実績を使って概算を入れ、請求書が届いた段階で確定値に修正すればよいのです。
でも実際の現場では、
「請求書が来ない」
「経費精算が終わっていない」
「資料がそろっていない」
といった理由で、前月の試算表が翌月末にならないと出てこない会社も少なくありません。
さらに、中小企業では、試算表が2〜3か月遅れている会社は決して珍しくありません。
半年に一度しか作成していない会社や、決算の直前、金融機関から融資資料の提出を求められたときに、慌てて数か月分をまとめて作成する会社もあります。
これでは試算表が、経営判断のための資料ではなく、税務申告や融資申込みのためだけの資料になってしまいます。
経理担当者にとって、長年続けてきた処理の順番を変えることは簡単ではありません。
今のやり方を変えるインセンティブもありません。
そんなことから、経理部門が担当者の中でブラックボックス化していることもあります。
また、会計事務所がボトルネックになっているケースもあります。
でも、誰か一人が悪いというより、経営者が月次決算を早める必要性を明確に示しておらず、早く数字を出すための仕組みがつくられていないことが根本的な原因です。
試算表が出るのが遅ければ、振り返りも遅くなります。
前月の数字を翌月末に確認していては、すでにその次の月が始まろうとしています。
課題に気づいても、対策を打つタイミングが翌々月へずれてしまいます。
あるいは、「もう過ぎた月の話だから」と、改善そのものが流れてしまうこともあります。
重要なのは、カンペキな試算表を見ることではありません。
体重計に乗らずにダイエットを成功させるのが難しいのと同じです。
まずは定期的に数字を確認する仕組みをつくらなければ、現在の立ち位置すらわかりません。
概算でも、早い段階で会社の方向性を確認し、計画や前月との差を経営判断につなげることが重要です。
月次を早める手段のひとつが、クラウド型の会計ソフトの活用です。銀行口座やクレジットカードのデータが自動で取り込まれるため、手入力の手間が減り、数字が出るまでの時間を短縮できます。
UKパートナーズでは、マネーフォワード クラウドの導入支援を通じて、経理業務そのものの合理化もお手伝いしています。

試算表が翌月5営業日までに出れば、その月のうちに原因を整理し、対策に着手できます。翌月末まで数字が出なければ、振り返りをした時点ですでに次の月も終わりかけています。
2.棚卸しを毎月していない
商品や製品、材料を扱う会社では、毎月の棚卸しをしなければ、月ごとの正しい利益が分かりません。
売上に対応する原価が確定しないからです。
商品を仕入れた時点で、すべてがその月の原価になるわけではありません。
まだ売れていない商品や、製造途中の製品、残っている材料は、在庫として翌月以降へ繰り越されます。
棚卸しをせず、仕入額だけをもとに利益を計算すると、月ごとの粗利益が大きくぶれます。
反対に、実際には在庫が減っているのに帳簿上の在庫を修正していなければ、利益が実態より多く見えることもあります。
「今期は儲かっている」と考え、節税や決算対策のつもりで設備、車両、備品、保険などを購入した。
でも決算時に棚卸しをしてみると、想定より利益が少なかった。場合によっては赤字だった、ということもあります。
棚卸しは、税務申告のために年1回だけ行う作業ではありません。
毎月の粗利益を確認し、過剰在庫や滞留在庫を早く発見するための経営管理です。
すべての在庫を毎月正確に数えることが難しい場合でも、
- 主要商品を重点的に確認する
- 金額の大きな在庫を確認する
- 入出庫データから概算する
- 数か月に一度、実地棚卸しで差を補正する
など、自社に合った方法を決める必要があります。
3.「借りられるだけ借りておく」が常態化している
銀行の預金残高が多ければ、当面の支払いには困りません。
動画やSNSなどでは、「借りられるうちに、できるだけ借りておくべきだ」と強めに語られることもあります。その言葉だけを受け取り、目的や返済計画を整理しないまま借入れを増やす経営者も少なくありません。
「銀行が貸してくれるうちに借りておこう」
「現金は多い方が安心だから、とりあえず借りておこう」
という判断自体が、常に間違っているわけではありません。
問題は、何のために借りるのか、いつまでに返すのか、返済財源はいくらあるのかを整理しないまま、借入れだけを増やすことです。
計画性のない借入れは、その場の資金不安を一時的に消してくれます。
痛みを一時的に抑える鎮痛剤のようなもので、借り入れた直後は預金残高が増え、資金繰りの不安から解放されたように感じます。
でも、借入金が増えれば、毎月の元金返済も増えます。
金利負担や保証料も増えます。
数年後には返済額が重くなり、借りる前よりも資金繰りが苦しくなっていることもあります。
その苦しさを解消するために、さらに追加融資や借換えを繰り返す。
借入れで返済を支える状態が続けば、やがて金融機関の融資余力や会社の返済能力にも限界がきます。
本当に設備投資が必要になったときや、予期せぬ事態が起きたときに、追加の調達余力が残っていないということに直面しかねません。
確認してほしいのは、借入残高の大きさだけではありません。
- 税引後利益と減価償却費の合計は?(返済財源)
- 借入残高÷返済財源は?(何年で返済できるのか?)
- 年間の元金返済額はいくらか
- 返済財源>元金返済額になっているか?
- 借入金の使途と返済期間が合っているか
- 短期資金と長期資金が適切に分かれているか
- 返済後に会社へいくら現預金が残るか
を確認します。
借入れは悪ではありません。事業を成長させるために必要な手段です。
でも、借りられる金額ではなく、会社が無理なく返せる金額と条件を鑑みてマネジメントすることが大切です。
4.資金繰り表を作成していない
資金繰り表には、実績と予定があります。
実績の資金繰り表では、実際にいつ、いくら入金され、何に支払ったのかを確認します。
予定の資金繰り表では、これから先の入出金を予測します。
基本的な考え方はシンプルです。
月初現預金+入金予定-支払予定=月末現預金
最低でも6か月、できれば12か月先まで作成します。
売上代金の入金、仕入、人件費、家賃などの通常支払いだけではありません。
- 借入金の元金返済
- 法人税や消費税などの納税
- 賞与
- 保険料
- 設備投資
- 借入れなど資金調達による入金
- 配当や役員への支払い
など、実際に預金口座へ影響するものを入れます。
試算表は、過去の経済活動を会計上の数字に置き換えたものです。
一方、資金繰り表は実際の入出金を基礎にするため、会社の現金の動きをより直接的に確認できます。

試算表は過去の経営結果を、資金繰り表は未来の入出金を示します。同じ会社の数字でも、確認している時間軸と目的が異なります。
資金繰り表を作成していれば、3か月後に資金が不足する可能性があると分かった時点で、
- 売掛金の回収を早める
- 支払条件を調整する
- 設備投資の時期を見直す
- 運転資金を金融機関へ相談する
- 借入金の返済条件を見直す
といった選択肢を検討できます。
資金ショートの直前になってから金融機関へ相談しても、選択肢は限られます。
調達が不調に終わった場合も、時間に余裕がなければ代替策を検討できません。
棚卸しを毎月実施することが難しい会社でも、実績の資金繰り表があれば、実際のお金の流れは把握できます。
もちろん、資金繰り表は棚卸しや正確な利益計算の代わりにはなりません。でも、試算表だけでは見えにくい現金の動きが掴めるのでこちらの方が実は重要です。
さらに、融資を申し込む際に資金繰り表があれば、金融機関に対して、なぜ資金が必要なのか、いつ不足するのか、どのように返済するのかを具体的に説明できます。
会社の状況に対する解像度が上がり、経営者と金融機関との共通言語になることも大きなメリットです。
資金繰り表は、お金が足りなくなってから作るものではありません。
資金が足りなくなる時期を早く知り、対策を選べる時間を確保するために作るものです。
5.資金繰りのマネジメントを経理や税理士に任せきっている
経理担当者には、過去の取引を会計ソフトへ入力し、売上や経費、債権、債務などを管理してもらっていると思います。
税理士には、会計処理や税務申告、納税予測などを依頼できます。
でも、
- 会社を将来どうしたいのか
- どの事業へ優先的に投資するのか
- どこまでリスクを取るのか
- 金融機関とどの条件で交渉するのか
- 個人保証や担保をどうするのか
- 社長の個人と法人の利益配分や資産の最適解は?
という判断は、経営者にしかできません。
こういた内容は、センシティブな情報です。
個人資産、個人保証、担保、家族の事情など、経理担当者には共有しにくい情報もあります。
また、会計事務所によって得意分野は異なります。
税務や会計には詳しくても、資金調達、金融機関との交渉、借入構成の見直し、将来のキャッシュフロー設計まで対応しているとは限りません。
税理士がいるのに財務の不安が解消されない理由は、税理士の能力が低いからではありません。
税務申告のために過去の数字を整理することと、会社の将来を見据えて資金を組み立てることでは、役割が異なるからです。
関連記事:税理士がいるのに財務の悩みが消えない理由
最終的には、経営者自身が会社の現在地と将来の見通しを理解し、資金の優先順位を決める必要があります。
数字が苦手だからといって、すべてを任せきりにしてしまうと、会社の資金繰りはうまく回りません。
翌月5営業日までに速報値を確認する
資金繰りを改善するために、まず取り組みたいのが月次決算の早期化です。
理想は、翌月5営業日程度までに、少なくとも次の数字を速報値で確認できる状態です。
- 売上
- 粗利益
- 営業利益
- 現預金残高
- 売掛金
- 在庫
- 買掛金
- 借入残高
請求書が届いていない支出は概算で計上し、あとで確定値との差を修正します。
速報値と確定値に差が出ること自体は問題ではありません。
差が出た理由を把握し、翌月以降の予測精度を高めていけばよいのです。
いつまでも請求書の到着が遅い取引先や部門がある場合は、どこかで締切を決める必要があります。
期日までに届かなかった請求書は社内処理上、翌月に回す一方で、当月に発生していることが分かっている支出は概算額で計上するなど、早期化と正確性を両立するルールを決めます。
精度100%の数字を1か月遅れで見るより、95%程度の速報値を早く確認し、次の対策を決める方が経営には役立ちます。
資金繰りばかりを見ていても経営は前に進まない
とはいっても、経営者が毎日預金残高ばかり確認して、多くの時間を使うのも違います。
会社の目的は顧客へ価値を提供し、利益を生み、会社を成長させることです。
資金繰りは、会社を存続・成長させるための重要な手段ですが、それ自体が経営の目的ではありません。
よく似たことは、補助金にもいえます。
補助金の申請に熱心になるあまり、採択されること自体が目的化している経営者もいます。
しかし、本来確認すべきなのは、
- 補助金がなくても、本当に必要な投資なのか
- 投資後に利益や現預金が増えるのか
- 補助金の入金まで資金を立て替えられるのか
- 申請や報告に使う時間に見合うのか
という点です。
補助金も資金繰りも、経営を支えるための手段です。
手段を集めることが目的化してしまえば、経営リソースの配分を誤ります。
必要なのは、
資金繰りを放置しない。
しかし、資金繰りだけにあなたの時間を奪わせない。
というバランスです。

会社を安定させるには、利益を出すこと、必要な現預金を確保すること、将来への投資を行うことの3つが必要です。どれか一つだけを優先するのではなく、会社の状況に応じて配分を調整します。
資金繰りを改善する5つの手順
資金繰りが苦しいと感じたときは、次の順番で整理します。
- 翌月5営業日までに試算表の速報値を出す
- 商品・製品・材料の棚卸しを毎月行う
- 資金繰り表に実績と予定を記録する
- 返済財源と年間元金返済額を比較する
- 6か月から12か月先の資金不足と対策を経営者が確認する
ここまで整理すると、資金不足の原因が、
- 利益不足なのか
- 売掛金の回収条件なのか
- 在庫の増加なのか
- 借入返済の負担なのか
- 設備投資が圧迫させているか
が見えやすくなります。
原因が異なれば、対策も変わります。
原因を確認しないまま、
「とりあえず売上を頑張ろう」
「経費を削減しよう」
「追加で融資を申し込もう」
といった感じで進めると、かえって資金繰りが苦しくなる場合もあります。
社外CFOは数字を経営判断へつなげる
社外CFOの役割は、試算表や資金繰り表を代わりに確認することだけではありません。
- 会社の現在地を整理する
- 経理体制をアップデートする
- 利益と現預金の動きを結びつける
- 将来の資金不足を予測する
- 借入金の使途、期間、返済額を整理する
- 金融機関へ相談するタイミングと内容を精査する
- 経営者の優先順位を数字へ落とし込む
といった動ける状態まで支援します。
ただし、最終的な意思決定をするのは経営者です。
社外CFOへ任せれば、経営者が数字を見なくてよくなるわけではありません。
経営者が経営判断に必要な数字が腹落ちし、資金繰りの確認に追われることなく、本業や成長戦略へ集中できる状態をつくることが目的です。
その結果として、経営者がより良い意思決定をできる環境を整えることが、社外CFOの使命だと考えています。
まとめ|試算表を未来の資金繰りにつなげる
試算表を毎月作っていても、出てくるのが遅ければ、経営判断には使ない。
棚卸しをしていないと、利益を正確に把握できません。
借入れを繰り返すだけでは、将来の返済負担が増えます。
資金繰り表がないと、資金が不足する時期と金額を把握できません。
そして、経理担当者や税理士から過去数字の説明を受けるだけでは、会社の将来の優先順位は決まりません。
大切なのは、
試算表を作っているかどうかではなく、
その数字を未来の経営判断へつなげられているか
ということです。
UKパートナーズでは、DX導入支援、試算表の早期化、棚卸し、資金繰り予測、借入金の返済計画、金融機関との交渉方針まで、会社の状況に合わせて整理しています。
ご相談いただいたからといって、すぐに追加融資や経費削減をおすすめするわけではありません。
まずは会社の現在地と、資金ショートにつながる原因を整理し、どの対策から始めるべきかを一緒に確認します。