事業承継でM&Aを選ぶ前に|売却条件より先に整理すべき会社・家族・PMI

事業承継でM&Aを選ぶ前に、会社・家族・PMIを整理する重要性を示した画像

事業承継でM&Aを検討するとき、後継者が見つからない会社では、
M&Aが有力な選択肢として出てきます。

事業を残すことができる。
社員の雇用を守れる可能性がある。
株式の譲渡代金を受け取り、次の人生に進める。

もちろん、合理的な方法です。

ただ、私はM&Aを考えるとき、売却価格や条件より先に
整理した方がよいことがあると思っています。

それは、

この会社の何を残したいのか。
誰に、どのような状態で引き継いでほしいのか。

という経営者自身の価値観です。

M&Aは、会社を売って終わる手続きではありません。

会社、社員、取引先、経営者本人、
家族のその後まで含めた、事業承継の一つの方法です。

事業承継では、M&Aありきで進めるのではなく、まず会社・株式・家族の状況を整理する必要があります。

詳しくは、事業承継は相続税対策から始めない|最初に整理すべき会社・株式・家族のことでも解説しています。


また、事業承継やM&Aの進め方に迷ったときの支援内容は、事業承継・M&Aの社外CFO支援のページにまとめています。

事業承継でM&Aを選ぶ前に、出口を整理する

後継者がみつからないとき、

「M&Aしかないですね」

と話が進むことがあります。

でも、M&A以外の選択肢もあります。

親族へ承継する。
役員や社員へ承継する。
もうしばらく頑張ってみる。
一部の事業だけを譲渡する。
最終的に廃業を選ぶ。

どの方法がよいかは、会社の財務状況だけでは決まりません。

後継者の適性、社員の意向、株主構成、借入金、個人保証、
取引先との関係、経営者と家族の希望によって変わります。

M&Aは有力な選択肢ですが、唯一の答えでというわけではありません。

まず考えるべきなのは、

あなたと会社は、どのような出口を目指すのか。

ということです。


M&Aの成立は、結婚に少し似ている

少し乱暴なたとえかもしれませんが、
M&Aの成立は結婚によく例えられます。

相手が決まり、条件がまとまり、契約を締結する。

関係者も前向きになり、明るい未来が始まるように見えます。

ただ、結婚は結婚式を挙げた瞬間がゴールではありません。

むしろ、そこから本当の結婚生活がはじまります。

生活習慣も違う。
お金の使い方も違う。
家族や仕事に対する価値観も違う。

一緒に暮らして初めて見えることがあり、
関係を続けるには試行錯誤や努力が必要です。

M&Aも同じです。

成立前は、どうしても成功した姿を思い描きます。

「この会社の技術を生かしたい」
「社員を大切にしたい」
「両社の強みを組み合わせたい」

売り手も、

「この相手なら任せられる」
「一緒になれば成長できる」
「細かい問題は後から何とかなるやろ」

と期待します。

その段階でマイナス面を指摘されても、

「少し後ろ向きすぎるのではないか」

と受け取ってしまいがちです。

しかし実際には、何とかなると思っていた部分ほど、成立後に問題になりやすいのです。

売却条件より先に、価値観を確認する

M&Aでは、企業価値、譲渡価格、支払条件、役員の処遇など、金銭面の交渉に注目が集まります。

もちろん、金額は重要です。

でも、条件が合ったからといって、
会社同士がうまくやっていけるとは限りません。

成立前に確認しておきたいのは、両社の価値観です。

  • 利益を優先するのか、雇用を守るのか
  • 意思決定を本社へ集約するのか、現場へ任せるのか
  • 長年の取引先との関係を継続するのか
  • 社名やブランドを残すのか
  • 社員をどのように評価するのか
  • 既存の経営陣をどこまで残すのか
  • 技術や顧客情報を誰が引き継ぐのか

どれが正しいという話ではありません。

問題は、売り手と買い手の考え方が違うのに、
その違いを曖昧にしたまま成約することです。

売り手は、

「社員を大切にすると聞いていた」
「わたしに顧問として残って欲しいと聞いていた」

と不満に思う。

買い手は、

「もっと新しい方針に協力してもらえると思っていた」
「いままでのやり方に固執するなら、シナジーは難しい」

と感じる。

双方が「聞いていた話と違う」となれば、関係は急速に悪化します。

M&Aでは条件交渉だけでなく、何を大切にする会社なのかを擦り合わせる作業が必要です。

成約前からPMIを考えておく

M&A成立後に、経営、組織、人事、会計、システム、企業文化などを統合していく作業をPMIといいます。

PMIは、成約後に考えればよいものではありません。

成約前から、少なくとも次のことは詰めておく必要があります。

  • 誰が経営を担うのか
  • 最終的な決裁権限を誰が持つのか
  • 会計や勤怠などのシステムをどうするのか
  • 給与や評価制度をどうするのか
  • 社員や取引先へ、誰がいつ説明するのか
  • 前経営者はどの期間、どの立場で残るのか
  • 期待するシナジーを、誰がいつまでに実現するのか

M&A直後であれば、多少の混乱は、

「統合したばかりだから」

で済むかもしれません。

しかし、半年、1年と時間がたてば、その言葉は通用しなくなります。

システムがつながらない。
責任者が決まっていない。
どちらの会社のルールを使うのか分からない。
社員が新しい評価制度に納得していない。

こうした状態が続けば、M&Aによるシナジーどころではありません。

契約書に署名しただけで、二つの会社が一つになるわけではないのです。

成立したことと、成功したことは違う

M&Aの成功率は、何を成功と定義するかによって大きく変わります。

売却代金を受け取れれば成功なのか。
利益が増えれば成功なのか。
社員の雇用や技術、取引先との関係を残せれば成功なのか。

数字の定義はさまざまですが、少なくとも言えるのは、

M&Aが成立したことと、期待した成果が出たことは別である。

ということです。

実際、私の身近なところでも、M&A成立直後から大きな対立が起き、

最終的に法廷へ判断を委ねている事例があります。

細かな事情は書けませんが、成立時には双方が前向きだったはずです。

それでも、経営方針、権限、認識、約束の受け止め方がずれれば、関係は一気に壊れます。

「こんなはずではなかった」

これは決して珍しい言葉ではありません。

PMIを怠ると、買った会社の価値まで失われる

M&A後に、買い手側の人事制度やシステムを一気に持ち込むと、現場に大きな負担がかかります。

社員が新しい方針に納得できず、キーマンが辞める。
技術やノウハウが引き継がれない。
長年の取引先との関係まで弱くなる。

そうなると、期待していたシナジーが出ないだけではありません。

買収時に評価していた会社の価値そのものが、成立後に失われていきます。

本来であれば、こうした価値観、権限、人事制度、システム、譲渡後の役割まで、成約前に時間をかけて確認しておく必要があります。

会社の価値は、決算書に表れる数字だけではありません。

社員の技術、現場の判断基準、取引先との信頼。
こうした見えない資産を、どう残し、どう新しい体制へつなぐのか。

そこまで考えるのがPMIです。

M&Aは契約で終わりではありません。
成立後に会社の価値を減らさず、さらに育てられるかが本当の勝負です。

譲った後に、元オーナー風を吹かせない

これはM&Aだけの話ではありません。

親族内承継でも、社員への承継でも同じです。

株式や経営権を譲ったにもかかわらず、
前経営者がいつまでも意思決定へ口を出すことがあります。

社員も、新しい経営者ではなく、前経営者の顔色を見る。

新しい経営者には責任があるのに、実際の権限がない。

これでは、承継した側は力を発揮できません。

譲る側には、譲った後の配慮が必要です。

求められないのであれば、口を挟まない。

意見を伝える必要があるなら、
社員の前ではなく、新しい経営者へ直接伝える。

会社へ残る期間、役割、権限、報酬、退任時期を、成立前に明確にする。

「自分が育てた会社だから」という気持ちは分かります。

でも、譲った後も自分の会社のように振る舞えば、
新しい経営者との関係は壊れます。

親族内承継が、いつも幸せとは限らない

経営者としては、できれば子どもに会社を継いでほしい。

その気持ちは自然です。

ただ、子どもに経営者としての適性があるかどうかは、
親子であることとは別の問題です。

本人が望んでいない。
社員から信頼されていない。
経営に関心がない。
前経営者と考え方が合わない。

それでも「家族だから」という理由だけで承継を進めれば、
会社だけでなく、親子関係まで壊れることがあります。

大塚家具の例を出して申し訳ありませんが、
事業承継をめぐる対立が、経営問題にとどまらず、
親子関係そのものへ影響することもあります。

親子関係が壊れるほどの承継になるのであれば、
そもそも親族への承継が最善だったのか、
一度立ち止まって考える必要があります。

親族内承継が正解。
社員承継が正解。
M&Aが正解。

そう単純に決められるものではありません。

大切なのは、誰に譲るかだけではなく、

誰に譲れば、会社と関係者がその後も前へ進めるのか。

を考えることだと思います。

後継者が会社に入った後は、肩書を与えるだけでなく、権限、株式、前経営者との役割分担を整理しなければなりません。
親子承継で起きやすい問題は、後継者が会社に入った後に起きる問題|権限移譲・自社株・親子承継の注意点の記事で詳しくまとめています。

仲介会社とは別の第三者と話してみる

M&A仲介会社は、買い手を探し、条件を調整し、取引を成立させる専門家です。

自社だけでは見つけられない相手と出会い、複雑な交渉を前へ進めるうえで、重要な役割を担っています。

一方で、仲介会社の多くは、M&Aが成立したときに報酬を受け取る成功報酬型のビジネスモデルです。

取引が成立しなければ報酬が発生せず、
一般的には売買価格が大きくなるほど手数料も増える仕組みになっています。

そのため、仲介会社が悪いという話ではありませんが、構造上、

  • できるだけ取引を成立させたい
  • 長期間の検討や途中での破談は避けたい
  • 売買条件の調整を優先したい

という方向へ意識が働きやすいことは、念頭に置いておく必要があります。

また、多くの場合、仲介会社の業務はM&Aの成立までです。

成立後の組織運営、人事制度、システム統合、社員との関係、前経営者の権限など、PMIには継続して関与しないケースが少なくありません。

でも、売り手や社員にとっては、成立後から新しい生活が始まります。

仲介会社が見ている「成約まで」と、経営者が考えなければならない「成約後」では、時間軸が違うのです。

だからこそ、仲介会社の提案を受けながらも、

本当にM&Aが最善なのか。
この条件で、会社と社員は成約後もうまくやっていけるのか。
金額以外に守りたいものは何なのか。

を、取引の成立によって報酬が左右されない第三者と話してみる意味があります。

仲介会社と対立する必要はありません。

それぞれの立場と役割を理解したうえで、仲介会社には取引を進めてもらい、
別の第三者には会社側の考えや選択肢を整理してもらう。

その方が、あなたも冷静に判断しやすくなります。

あなたの価値観を整理する

  • 自分は会社の何を残したいのか
  • 金額以外に譲れない条件は何か
  • 社員や取引先をどうしたいのか
  • 家族はM&Aをどう考えているのか
  • 譲渡後に自分は会社へ残りたいのか
  • 経営者を退いた後、どのように生きたいのか

UKパートナーズでは、売ることを前提に話を進めるのではなく、
会社の数字、経営者と家族の意向、社員や取引先への影響、譲渡後の関わり方まで含めて整理します。

売却を検討中でも、これから検討の段階でも構いません。

一度あなたの考えを整理してみませんか。

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